Perfect MECE – 人の命を預かるものを作るということ
全ての電源が失われるというケースを想定していなかった。
最近とても人気なNHK水野解説員が指摘する今回の問題が起きた原因。その通りですね。津波の高さが想定外だろうが関係ない。
インフラ開発では起こりうる全ての問題点を洗い出した上で、全てに対応策を盛り込んでおくことが求められます。
新卒でとある国産ITベンダーに就職した私が配属されたのは、社会インフラを開発する事業部でした。インフラの開発はとっても地味です。できてあたりまえ、ほめて貰えることはありません。そのうえ失敗や考慮漏れは許されない。そのまま人命に関わることがあるからです。今回の事故のように。それがインフラの宿命。
インフラ開発の厳しさを学ぶために新人研修で聞かされる失敗談がありました。事実かどうかはわかりません。電力系システムのエラー、伝説のバグです。
とある水力発電の大規模な管理システム開発において。全てのプログラム設計が終わり、複雑な水力発電系メカにプログラムをインストールして最終試験も終了、電力会社さんに納品した後のこと。大雨となり、いよいよダムが洪水を防ぎ社会に役立つ場面となりました。川の水量を減らすためにダムの水門を閉めるスイッチを押したところ、何故か水門は閉まらず、逆に全解放になってしまったとのこと。現場では急遽水門の開閉をプログラム制御ではなくマニュアル制御に切り替え、事なきを得たそうです。その後、社長と副社長が電力会社に呼ばれ土下座して謝ったとか、今では本当かどうか分からない伝説です。
最終試験では当然水門の開閉試験も行い問題の無い事を確認しているのに、なぜ実際の大雨では水門の開閉が逆に動作したのでしょうか?
水門の開発は建設会社、水門の開閉制御プログラムはITベンダーが担当していて、結合するのは最終試験のみ。それまでは水門の動作をシュミレートする試験用のプログラムを自分たちで組んで試験を行います。その試験用プログラムにバグがあり、「大雨で川の水量が上がる」という条件でプログラムエラーが取りきれていなかったらしいのです。
ダム管理システムでは、プログラム制御からマニュアル制御に切り替えるという手段が残されていて、事なきを得ましたが、「人はミスをするもの、どんなに気をつけていても気をつけすぎることはない、過信はするな」というインフラ開発の厳しい姿勢を学べた伝説です。
その、人の命を預かるという厳しさを追求する姿勢が、残念ながら今回の事故では感じられません。現場では必死に事故を最小限に食い止めようと、それこそ命がけの毎日であることは痛いほどわかるのですが、経営側にどうも「想定外のケースだったので」という逃げが感じられるのです。
津波が想定外だろうが、「電源が全て失われる」というケースは想定できたはず。それが機能しなかった点は十分責められるべきです。厳しいですが、人の命を預かるインフラです。それが宿命です。
もう一つ感じる緩さが「原子力発電」の研究姿勢にあるような気がしてなりません。
原子力発電は核分裂で発生するエネルギーつまり自然の力を利用する技術です。自然は人の力では本来コントロールできないもの。自然の力を利用するには、ある条件を設定し、その範囲内で全ての場合に対応できると確信し、かつその範囲を超える例外はないと実証できた時のみ、自然の力を利用する「科学技術」が確立したと言えるはずです。
「原子力発電」は「科学技術」になっていたのでしょうか?
現在、核分裂を止めるためなのかβ崩壊熱を押さえるためなのか、必死で冷却作業が行われていますが効果は芳しくありません。「原子力発電」が「科学技術」の域に達しているならば、どんな条件下であろうと即座に核分裂を人間の意志で停止しβ崩壊熱も押さえることができるはずです。核分裂は即座に停止できないという物理先生の教科書講座は「科学技術」には無用です。教科書講座は原理原則のみ。人の命を預かるという厳しさはありません。
伝説のバグがあった水力発電の開閉システムも、プログラムとマニュアル制御の切り替えで、人間の意志で制御できました。
科学技術に達していないものを科学技術とすべく研究するのはよいことですが、人間が制御できなくなる条件があるような研究段階の技術は産業に用いてはなりません。
70年代のオイルショック、私はカナダから日本に帰ってきたばかりの子供でした。中東諸国は意地悪く石油の生産を調整し価格をつり上げ、物価は上がり、多くの企業が倒産し、人々が職を失い、社会が狂乱しました。石油に依存する社会、いや、中東諸国の意のままになる国の恐ろしさを子供ながらに強く感じていました。
他国の戦略に振り回される事無く、技術の力で安定的にエネルギーを得る原子力は、社会インフラとしても輸出できる産業としても期待していたのです。
しかし、想定外というインフラにあるまじきケース設定で、科学技術にあるまじき対処方法を見る限り、残念ながら原子力発電は諦めるしかないと感じます。別のエネルギー獲得手段を新しい産業とすべく、進んで行きましょう。
- 2011年4月3日1:02 AM
- | category : Thinking
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