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高橋大輔選手にふりかかった偽ベートーベン事件。なぜゴーストはだめなのか。

      2014/02/15


高橋大輔選手がソチオリンピック会場に到着したそうで、怪我の影響が心配ですが、頑張っていただきたいです。応援しています!

以前、高橋大輔選手の進化をプログラム曲からみるとまとめたように、ガラスのハート少年が強く成長したことをすばらしく思い尊敬しています。ただ、この中に今世間をにぎわしている今期ショートプログラムの現代曲は入れませんでした。

私は音楽好き総合芸術が好きなので、フィギュアスケートのプログラムもとても好きです。様々な選手による多様な挑戦のなかで、誰かにぜひクラッシックの現代音楽でスケートしてほしい(小塚選手がいいな)と思ってましたが、現代曲を選んだのはなぜか高橋選手。そして待望の現代音楽が「なんでこんなの選んじゃったかなぁ、、」とコメントのしようがないというか、曲については悪くしか言えないので、なるべく見ないようにしていました。そして、曲の生まれた背景については案の定でした。

伊東乾氏が

その名を記す気にもなりませんので「偽ベートーベン」と記すことにします。普段私は「ベートーヴェン」と表記しますが、この人物は「偽ベートーベン」が適当と想います

とおっしゃってる通りに思いますので私も「偽ベートーベン」と記すことにします。

伊東乾氏は東大准教授でいらっしゃるようですが、私が商用音楽を志していた頃、武満メモリアルホールでの現代音楽のコンペティション、武満徹作曲賞に参加されたのを聞いた事があります。正直3人のファイナリストの中で一番、というか、なぜこの作品がファイナルに残っているのかわからない作品でしたごめんなさい。(優勝の方はファイナリスト中では妥当でしたが、該当者無しが正解のコンペだったと記憶しています。)「現代音楽にはもうやることがない(やりつくされている)ので面白みがない」と改めて理解し、商用の道に行こうと帰り道に思った覚えがあります。今回の騒動は氏がきっと総括してくださるだろうと思っておりましたが、やはりそうですね。氏の論旨展開に概ね同意します。(氏は創作よりも学術研究が向いている方だと思います。)

私は「偽ベートーベン」の存在は知らなかったです。少なくとも、現代音楽の作曲家として名の通った人は知っているつもりですが(芸術分野において価値が認められる人は相応のルートで自ずと知られていくものです)、高橋選手が採用した現代曲の作曲家ということで「へーそんな人いたんだ」と興味は持ちました。しかし、肝心の曲がどこがいいのかさっぱりわからない評価のしようのない曲です。その曲で練習もオリンピックも頑張る高橋選手のことをネガティブに思いたくないため深追いはしませんでした。

実際、偽ベートーベンの曲は、高橋選手のプログラムでしか聞いた事がなく聴く気もおこりませんでした。ヤナーチェックのメロディーをシェーンベルグの書法で哀愁感だけやたら高める、昭和初期の商用音楽じゃないですかこれ、というのが第一印象。尺がめちゃくちゃで意味がないのも、商用音楽のためなのか編集後のためなのか、わからないな、と思っていたら偽ベートーベン氏がセンスの無い尺指定はしていたようですね。納得しました。

こんなひどい話、高橋選手には全部振り落としてほしいです。

私は、ネットでよくみかけた「なぜゴーストがいけないのか」を考えてみたいと思います。

芸術作品と商用作品、前提が違います

「なぜゴーストがいけないのか」とおっしゃる方は、素朴に疑問を呈していらっしゃいます。著作物ならゴーストライターはわりと当たり前なのに、作曲はなぜだめなのか?というのが疑問です。

答えは簡単です。今回は一応、「芸術(ハイアート)作品として発表された作曲」がゴーストだったからです。まがい物だったというわけです。これが商用音楽ならば大して問題にならないでしょうし、実際商用音楽の世界はゴースト横行しています。エッセイ等の雑文でゴーストライターは問題ないでしょうが、仮に川端康成や芥川龍之介の純文学作品がゴーストだったならば大問題でしょう。三島由紀夫の「金閣寺」が実は無名の学生作品だったら、もはや三島作品と見なされず、無名の学生探しに血眼になるでしょう。

現代の芸術作品の価値は作品のみならず、その背景とりわけ作品を生み出した人物、時代と作家が考えた事や生き様が芸術の歴史の中でどのようなコンテクストを持つかで評価されるからです。生み出した人が別の人ならば、生み出した人物自体を改めて評価し直す必要があります。文学作品でゴーストが認められないのと同様、(芸術)音楽作品においてもゴーストは歴史的、慣習的に、そして、法的にも認められていません。ペンネームにすることはあっても、他人の作品を自分名義にしてしまうことは、芸術分野においてはありえません。作品と作家の同一性が求められるからです。芸術という人の歴史を刻む価値のある人物として評価される概念を生み出しているかどうか、検証されながら賞賛されていくのがハイアートの世界です。

作者が判明しても、芸術作品にはならないだろう

では、作品が本来の作者である新垣隆氏になったとしたら芸術として成立するのか?ですが、私は否だと思います。まずは、新垣氏本人がおっしゃってるように、あくまでも練習問題的に偽ベートベーンのむちゃくちゃな提示を解くのが面白くて曲を書いていた部分があり、新垣氏自身が本来持つ芸術性から作品が生み出されたわけではないからです。新垣氏が芸術作品を書くならば、まったく別の作風による作品となるでしょう。偽ベートベーン指示によって生み出されたものはあくまでも解法の面白さを新垣氏が求めており、本人の芸術性ではなく技術と知識のみが適用されたものだからです。

なお今後、新垣氏が現代作曲家としての評価が高まれば、おまけ的小品として評価されるかもしれませんが、新垣氏の現代作曲家として評価が高まる方が先です。本人にそのような(現代作曲家として生きる)意向や自覚があるようには見えないです。

工房システムとごっちゃにしないで

美術の世界には工房システムがあります。ミケランジェロも狩野派(日本画は厳密には表具扱いでハイアートには分類されませんが)も工房システムを採用して作品を作っています。作品がおおがかりなため、一人では作れず作業分担するのです。ミケランジェロは現場では総監督であり弟子に指示する立場になります。
音楽でも弟子を使って作品を書き上げることはあるかもしれません(あまりききません)。あるとしたら、もう出来上がったフルスコアからパート譜を書き上げる、とか、楽譜を移調楽器用に書き写すとか、スラー足し(笑)とか、指定したハーモニーの展開作業をやらせるとか。基本的な技術があるならできることを分担でやらせることはあるかもしれません。

でも、ミケランジェロが彫刻する人物の表情もポーズも描かず「嘆くキリスト像」とテーマ設定しただけで弟子任せにすることはないでしょう。音楽の3要素は、旋律、和声、リズムです。この創作・吟味・推敲を他人任せにすることは芸術音楽作品においてはありえません。偽ベートーベン氏の指示書は、こういうものが作りたいという要望(妄想)が書いてあっただけで、芸術音楽作品の創作痕跡はありませんでした。工房システムにすら至っていないのです。ちなみに、あの指示書とやらを凄いと勘違いしている人は、残念ながら芸術という教養の理解が足りないと言わざるを得ません。

偽ベートベーンに作品を生み出したいという気持ちがあった、というのは確かにそうでしょう。創作を指向するひとは誰でもそうです。創作でなくとも、何かを成し遂げたいと思う人は誰でもそうです。そこから、理想と現在の自分との乖離を埋める作業(努力)を皆していくのです。それをせず、他人のものを自分のものとするのは犯罪です。偽ベートベーン氏が創作にかかわるなら、プロデューサーという立場ならば問題はなかったでしょう。しかし、作品を作り上げる技術や知識を磨き上げる努力をしていないのに(おそらく才能も無く)あくまでも芸術作品の作者を貫き通そうとしたのが間違いでした。

高橋選手には申し訳ないですが、私自身は端っからこの音楽作品は評価していませんでした。人は強く成長することをみせてくれた選手、まぎれも無い一流の方ですので、どうかオリンピックでは自身の力で戦っていただきたいです。

 - Thinking

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